泥質片岩とひらら焼き

ひらら焼き 祖谷の食

泥質片岩でいしつへんがん。 いきなり難しい言葉ですみません。 この石の話はこれまでも何度か書かせていただきましたが、今回は祖谷の名物との関係についてお話したいと思います。

日本にもろい石は色々ありますが祖谷では一種類しかありません(一部地域を除く)。 それが泥質片岩です。

泥質片岩は脆いですが、いきなり粉々にはなりません。ミルフィーユのような層構造を持っており、まずはその層に沿って割れます。具体的には”氏神さんへの道をジオしてみました(祖谷を形作る2種類の岩石の話)”で示した通りです。

そしてこの泥質片岩は地すべりの原因にもなります。ミルフィーユの層の向きが山の傾斜と一致した場所で地すべりが起こります。割れやすい方向に圧力を受けるからです。

(泥質片岩の例)

地すべりは怖いですが、祖谷では必要悪です。なぜなら地すべり跡じゃないと傾斜が急で人が住めないからです。

地すべりは泥質片岩が土砂と一緒に崩れ落ちることで発生しますが、崩れ落ちた土砂はどこかでは止まります。そしてその止まった辺りの傾斜は緩やかとなり人が住めるのです。祖谷の傾斜地集落は(多分)すべてが過去に地すべりした場所です。

このように泥質片岩は我々に貴重な住処すみかを提供してくれていますが、恩恵はそれだけに留まりません。生活にも活用されています。その代表格が”ひらら焼き”です。冒頭の写真のもので祖谷の名物の一つです。

傾斜地集落

(傾斜地集落の例)

”ひらら”とは平らな石のこと。 石でかまどを作り、その上に鉄板代わりのひららを乗せて火であぶります。

ひららの上には周囲ぐるりと味噌で土手を作ります。そして土手で囲まれた内側にペースト状の酢味噌を流し込み、具材を煮込みます。

使われる具材は、アメゴ(”アマゴ”のこと。祖谷での呼び方)、豆腐、こんにゃく、ジャガイモと言ったところでしょうか。どれも祖谷の名産です。

ひらら焼きは川で行われるので、石を焼いている間、手の空いてる人はアメゴ釣りにも励みます。魚釣り大会にもなります。

石を焼くだけで3時間。 後は飲めや歌えの大宴会。 ひらら焼きと言えば1日がかりの一大イベントです。

アメゴ(アマゴ)

(アメゴ)

そのひらら焼き。ひららに用いられるのが泥質片岩です。層に沿って薄く割れやすい、すなわち加工しやすい性質を利用します。

もっと言うと、ひらら焼きには泥質片岩以外の石は使えません。2時間も炙ると割れてしまうからです。

理由は”氏神さんへの道をジオしてみました(祖谷を形作る2種類の岩石の話)”で書いた縦方向のダメージです。興味のある人はお読みください。
※泥質片岩は割れません。同様に縦にダメージが入っているはずですが。。。理由はまた勉強しておきます。

2時間も準備した後で”ひらら”が割れると大変です。代わりのひららもありません。イベントは中止せざるを得なくなります。せっかく色々川まで運んできたのに。。。皆さん憤懣やるかたない思いで帰路につきます。

と言うようなことが起こらないよう、あるいは昔やらかした苦い経験から、皆さん、泥質片岩に対する目利きは完璧です。途中で割るなどと言うヘマは決してしません。

もちろん、泥質片岩などという言葉は知りません。祖谷では”味噌石みそいし”と呼ばれます。そして味噌石かどうかを簡単に見分けます。素晴らしい眼力です。

泥質片岩

(ひらら焼きに用いられる泥質片岩)

以上、ひらら焼きを紹介してみました。 が、残念なことに、今ではひらら焼きを見る機会は殆どありません。

メニューに入れてる店はありますが、鉄板を用いた疑似ひらら焼きです。鉄板は鉄板であって”ひらら”ではありません。

と言うことでひらら焼き、現在絶滅の危機にあります。今や幻と言っても過言ではありません。味噌石を目利きできる人もいなくなるでしょう。

”大地が生んだ岩石”と”人間の知恵”の融合であるひらら焼き。三好ジオパークの大きなシンボルの一つです。是非後世に残したく思っています。

期待しているのはイベントです。

例えば毎年東祖谷で行われるウルトラマラソン。そのゴール地点でリアルひらら焼きが食べられたらどうでしょう?喜ばれること間違いなし!と思います。

ランナーのためと言うよりも、自分たちも楽しむ感じでよいと思います。飲み食いしながらランナーを待ちます。

そこにゴールするランナー。「おぉ~、食べろ、食べろ」、「飲め、飲め」。ひらら焼きと冷えたビールが待ち受けています。飲めや歌えの宴会が始まります。

ゴールの喜び、ひらら焼きとの出合い、地元民との交流。 最高のオモテナシになることでしょう。

と言うことで、ウルトラマラソンでのひらら焼きにご賛同いただける方、もしいらっしゃったら連絡ください。 計画を具体化したいと思います。

今年の東祖谷ウルトラは10月11日(土)~12日(日)の予定です。ひらら焼きは12日の午後でしょうか。

※東祖谷ウルトラマラソンは参加者20人程度の小規模なイベントです。タイムレースではなく、地元民との交流や風景を楽しみながらゆっくり走ります。ひらら焼きは交流の大トリ。参加者のよい思い出になると思います。
※リアルひらら焼きの様子は、例えばこちらをご参照ください。

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