東祖谷ジャーニーRun(その3:ウルトラマラソン本番)

東祖谷ウルトラ 恒例イベント

先週は東祖谷ウルトラ(昨年開催されたウルトラマラソン)のコースについて紹介しました。今週は本番の様子について紹介したいと思います。

開催日は2024年5月18日(土)~19日(日)の2日間。全国から集まった14人のランナーが参加しました(四国外が8人、関東から2人、沖縄からの参加もありました)。

本番1日目は晴天。5月にしては少し暑いくらいでした。そんな中、選手の皆さんは順調にチェックポイントをクリアしていきました。地元民との交流も計画通りです。

最初の訪問地”小島大日堂”では自治会長さんが待ち受け、説明の後、アクエリアスを1箱寄付してくださいました。

次の訪問地”木村家住宅”でもご当主が直接説明してくださいました。この住宅は国指定の重要文化財。祖谷では最も古い建物です。現在改修中にて見学できませんが、マラソン参加者には特別に改修の様子を公開してくれました。

(11km地点:木村家住宅でご当主と)

その後、集団で道を間違えるというハプニングもありましたが、そんなトラブルも笑いに変え、意に介する様子もなく和気あいあいとゴールを目指します。

(18km地点:平家屋敷阿佐家住宅にて23代目ご当主と)

ウルトラマラソン

(20km地点:エイドサービスしてくれた地元の皆さんと)

武家屋敷での様子

(26km地点:武家屋敷喜多家住宅にて)

(36km地点:落合集落展望所にて)

かかしの里ではたくさんのかかしが選手を応援してくれました。綾野さん、ありがとうございました。

(49km地点:かかしの里通過)

そして1日目を終えた選手たち。まだ明日もあるというのにこの様子。そういえば、昼間”ビール持ってない?”と聞いてきた選手もいました。

この人たちを見ていると、100kmくらいなら誰でも走れそう、と勘違いしてしまいそうになります。

(52km地点:宿にて)

日が変わって本番2日目。昨日と打って変わって悪天候になります。冷たい雨がシトシトと降り続きます。

2日目の目玉は標高1519mの”落合峠”。 ここを攻略したら”栗枝渡八幡くりしどはちまん神社”にご挨拶して終了するシンプルなメニューです。

しかしその落合峠が牙をきます。

本来は新緑が大変美しいところ。ひんやりとした空気も選手の心を癒すはず。景色と涼風を楽しみながら、ランニングの心地よい疲れを感じてもらう予定でした。

しかしそれは天気がよかった場合の話です。当日の落合峠は雨。ここは雨が降ると地獄です。風も出ます。

そうとも知らず選手たちは、明け方宿泊先(丸石パークランド)を出発し、落合峠登り口までの26kmを軽快に駆け下ります。高低差は400mですが、この長い下りも後にあだになります。

落合峠は登り口から距離にして12km、高低差で963mの上りです。平均傾斜角度は4.6度です。

箱根駅伝の名物”権太坂”の平均傾斜角度は1.5度、距離にして1kmです。対して落合峠は勾配で3倍、距離に至っては12倍もあります。その過酷さにおいては権太坂の比ではありません。

しかも長い下りに慣らされた足は突然の上りに悲鳴を上げます。驚くほど足が重くなり、4.6度のその傾斜が2倍にも3倍にも感じられます。 とても走り続けられるものではありません。 その多くを歩くことになります。
※実は私もマラソン経験者なんです

そこに容赦なく降り注ぐ氷のような雨。 体温が奪われ、冷えた筋肉は固まっていきます。 ”さぁ、走れ”、 ”さぁ、走れ” とランナーを追い込みます。 

更に道端には残雪。。。 ”はぁ? 今は5月、ここは四国ですよ”。 選手達は想定外の雪におののき、先行きに不安を覚え始めます。

”頑張っても苦痛が増すばかり”、”ここで脱落したら暖かいサポートカーに乗れる”。 朦朧もうろうとした意識の中で、そんな悪魔のささやきと葛藤し続けたランナーも少なからずいたはず。

まだ残る雪

それにしても、祖谷の神様はなぜにもここまでランナー達に厳しく当たるのでしょうか?

昨日は好天。 歓迎ムードを演出しながら翌日はこの雨。 落合峠を攻めるこの日に合わせて意地悪をしているようです。 この人たちを受け入れたくないのでしょうか? それとも馬鹿道を自負するこの人たちの精神を試しているのでしょうか?

そんな神様とランナーの狭間に置かれ、落合峠で待つ私の心はハラハラ、ドキドキ。 ”どうぞ選手の心が折れませんように”。 一生懸命、祈ります。 すると遠い雨の先に先頭ランナーの姿が小さく見え始めます。

ほっとする私。でもランナーは辛そう。スピードも出ないのかその姿はなかなか大きくなりません。疲労と寒さが彼の心身を相当むしばんでいることはわかります。

そしてやっとの思いで到着。倒れ込むようにエイドステーションで腰を下ろします。渡された暖かい飲み物を大切そうに手で覆い、放心状態で座っています。まだ消えていない闘志。再び湧き上がってくるのを一人静かに待っているようです。

そんな中、第2グループが見えて来ました。女性2人組です。何と、この人たちは、何やら楽しそうにベチャクチャおしゃべりしています。

一人の女性が私を見つけ叫びます。 「シロさ~ん!」。 私は白毛馬。頭の白をとってシロさんと呼ばれます。

「私~、すごいこと、発見した~!」。 嬉しそうに続けます。

彼女はこの冷たいの雨の中でもレインコートの下は半袖のTシャツ。そのTシャツの袖には腕が通されておりません。Tシャツの胴の部分のしまい込んでいるようです。そして窮屈そうに両肩を揺すりながら走り、こぼれんばかりの笑顔で叫びます。

「手~、Tシャツに入れてたら寒くない~!」

ずっこけました。 この人には苦痛を感じる神経が通っていないのでしょうか? それともこれくらいの悪条件は慣れっこなだけでしょうか?

その彼女は峠の休憩時間もにぎやかに過ごし、「えっ、もう行くの?」と思うほどの短い休憩の後、嵐のように去っていきました。

さすが全国から集まった猛者。物が違う!などと感心していましたが、やはりそこは人間。

さすがに「ビールくれ」と言う人はいませんでしたし(万一の備えて用意はしていた)、「もう二度と落合峠には来たくない」と言っている人もいました(その人は翌日なぜかわざわざ落合峠経由で帰ってましたが)。

それでもさすがウルトラマラソンの常連さん。ぼやきながらも、愚痴をこぼしながらも、過酷な悪天候付きの難関”落合峠”を”全員”がクリアしました。
※マラソン経験のない沖縄在住のK君だけは一人大きく遅れましたが、それでも根性でクリアしました。その詳細はこちら、またはこちら

そんな皆さんの苦悩もここまで。峠までくれば後は下るだけです。栗枝渡八幡神社に向かって再び上るというおまけはありますが、落合峠をクリアした皆さんなら苦も無くクリアするはず。しかもそこには地元の人たちの温かいお接待も待っています。

ということで、波乱万丈の東祖谷ウルトラ。全員めでたく完走しました。一人大きく遅れた沖縄在住のK君も皆が酔いつぶれる前に無事到着しました。

この満面の笑みをご覧ください。皆さんの喜びと感動。加えて強固な連帯感まで生まれました。

全員で祖谷の神様に勝利した瞬間です!

東祖谷ウルトラのゴールシーン

※本番の様子はこちらからもご覧になれます
※地元の文豪が書いてくれたレポートもあります
菜菜子の気ままにエッセイ(東祖谷ウルトラマラソン・初日) – 秘境という名の山村から(東祖谷)
菜菜子の気ままにエッセイ(馬鹿道・東祖谷ウルトラマラソンありがとう!後編) – 秘境という名の山村から(東祖谷)

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