今年も東祖谷ジャーニーRunが開催されます。10/11(土)-12(日)です。
※詳細はこちら。
昨年は”東祖谷ウルトラ”と題して開催されました。今年は”東祖谷おてつ旅”というお題で開催されます。要は東祖谷の景色のよい所を歩いたり走ったりしながら、地元民との交流を楽しむイベントです。
このイベントについてはこれまでちゃんと書いた事がありません。この機会に書いてみたいと思います。何回かに分けて書くことになります。

事の起こりは2023年の夏。徳島市から宇和島市まで走るイベントの存在を知りました。四国のまん中を横断します。距離にして340km。狂気です。
しかも問題はそのルート。吉野川沿いを上がるのであればまだ分かります。しかし彼らは西日本第2の高峰“剣山”の登山口(見ノ越、標高1398m)を越えて祖谷に入るルートを選びます。
かつて”陸の孤島”と呼ばれていた祖谷。一度入ると出るのも峠越え。一旦標高500mまで下りますが、再び京柱峠(標高1123m)に向かって上がり始めます。そこから高知を経由して愛媛に抜ける訳です。
ただでさえ過酷なウルトラマラソン。なぜにわざわざ山間部ルートを選ぶのか?と思いきや、彼らの狂気はそれだけでは終わりません。よく見ると、剣山の頂上(1955m)まで登って降りるルートになっています。
単に足を痛めつけたいだけなのでしょうか? ここまでくれば、もはやマゾ。 主催者も、参加者も、妖怪のような顔と肉体の持ち主に違いありません。

(主催者作成のイラスト)
とは言いつつも、そのルートなら私の家の前を通ります。地域活性化を標榜する私にとって、傍観者で終わる選択肢はありません。
しかも私の家から先は店はゼロ。京柱峠までの約10km。そこから高知側に下る10km、下手をすると20kmは何もありません。 皆さん、死にますよ! 妖怪だから大丈夫なのでしょうか?
いずれにしても、呑気に構えている場合じゃない。 そう思った私は、家の前に台を出し、おにぎり、お菓子、水など、とりあえず役に立ちそうなものを並べます。 幸い家には8畳ほどの土間があるので、そこで休憩が取れるようにもしました。

するとどうでしょう。 この大会はランナー同士がスマホで連絡を取り合いながら走るのですねぇ。 ここまでくれば食べものがある。 水が補給できる。 甘いものもある。 あっと言う間に情報が共有されます。
そして、おにぎりの売れること、売れること! 丁度お盆で妹が来ていました。 おにぎりはすべて妹が握ります。 5合炊きの炊飯器を6回回したと言っていました。
驚いたのはそれだけではありません。 妖怪だとばかり思っていたランナー達。 皆さん、至極普通の人たちでした。
どこの町内会でもいそうな人の好さそうなお婆様。 無事帰って病院開けられるかなぁ?と笑う歯医者さん。 大丈夫?と、こちらが心配になる程ゆっくりくつろいで行くおじさん。
皆さん、既に100km以上走っているはずなのに疲労感も悲壮感もゼロでした。
しかし出てくる言葉はやはり怪物。
「今からだと峠に着く前に日が暮れますよ」。 日没を気にする私に皆さんが答えます。
「私たちはヘッドライトつけて夜通し走るんですよ」、 「必要に応じて道端で寝るから大丈夫ですよ」、 「雨が降ってもレインコートを着て寝ますよ」。
あり得ないことをにこやかに口にします。

普通の人に見えたり、怪物に見えたり。 混乱気味の私の頭に新たな疑問が一つ。
スタッフは一体どこにいるのだろう?と言うことです。
一般的にマラソンイベントは準備が大変。資金を集め、広告を打ち、スタッフを募集し、交通を規制し、エイドステーションを出し、申し込み人数にやきもきし、最後は目に血が滲むほど天気予報とニラメッコします。大会を成功裏に収めるために、大量のヒト・モノ・カネをつぎ込み、準備と運営に膨大な労力を注ぎます。
しかしこの大会では選手以外の姿が見えません。真夏なのにエイドもありません。初めての道なのに看板もありません。日照りも雨も気にしていません(警報時除く)。
そしてランナーが口にする主催者の名前。 皆さん、”坂東さん、坂東さん”とおっしゃいます。 狂気のイベントの主です。
この人に聞けば謎が解ける。 お会いできるのを楽しみにしていました。 しかし会えませんでした。 坂東さんが私の家の前を通過したのが夜中だったためです。

(主催者作成のイラスト)
すると後日電話がかかってきました。丁度私が町のスーパーで買い物をしている時です。
「今、いいですか?」。 本当はよくなかったのですが答えます。 「いいですよ」。
そして、一通り挨拶を済ませた後は念願の謎解きです。
どうやらこの大会の主催者はアレンジするだけ。後はランナーが自己責任・自己判断でゴールを目指すもののようです。
たぶん制約は2つだけ。決められたゴールを目指すこと、連絡が取れること。
※私の勝手な予想です
後は自由。どこに寄ろうが、どこで寝ようが勝手です。花を愛でながら歩くもよし、出会ったおじさんと一杯やるもよし、もちろんタイムを目指して一生懸命走るのもよしです。
そして最後尾をサポートカーが付いていきます。「もう無理」と言う人は、そこで収容され、荷物と一緒に最寄り駅まで届けられます。あとは自力で帰ってね、てな感じでしょうか。
感動しました。自由で、柔軟で、無駄がない。そして賢い!
ランナーの意思と自主性が最大限に尊重されています。 主催側の負荷も最小限に抑えられています。 相反する2つの課題が上手に解決されています。
あぁ、これだ! ランナーたちが二言目には坂東さん、坂東さんと言っていたのは。
坂東さんはランナーを信頼。 ランナーは坂東さんを信頼。 互いが信頼しあっているからこそこんな無謀なイベントが成功するんだ! そう思いました。

(主催者作成のイラスト)
そんな坂東さん。「来年は東祖谷でウルトラマラソンをやりたい」と口にします。
”何? 何という渡りに舟”。 私は間髪入れず歓迎の意を表します。
繰り返しますが、私が標榜するのは祖谷の活性化。 当然イベントにも興味を持っています。 でも何でもOKという訳ではありません。 サステナブルでなければなりません。 始めてはみたものの、続けるのが重荷になってはいけません。
しかし坂東さんのイベントなら大丈夫。 SDGsの極みです。 ヒト・モノ・カネが最小限に抑えられています。
しかも信頼関係で結ばれたお仲間集団。 そんな人たちは祖谷にとっても大きな宝。 大歓迎です。
私は、”どんなサポートでもしますよ” と言い、”自分がローカルガイドをやっている” ことも伝えます。 ”祖谷の中ならどんなコースでもお手伝いできますよ” と添えます。
すると坂東さんも喜んでくれました。 「何やら私はドンピシャな人に出会ったかも」。
私たちは意気投合し、次回会う約束をして電話を切りました。
次回は”東祖谷ウルトラ”について書きます。
※2023年の四国横断マラソンについて知りたい人はこちら
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