平谷の治山堰堤群

平谷の治山堰堤群 ジオ

平谷たいらだに治山堰堤ちさんえんてい群については、観光サイト(入門編)で”ついでに立ち寄って欲しい場所”として記載しました。が、ジオ好きにとっては”ついで”では済まされない興味深い所です。ついては、このサイトについて少し詳し目に紹介しておきたいと思います。

ここで観光サイトのマップの、⑬奥祖谷二重かずら橋、⑩虹の谷、④祖谷のかずら橋、の3つにご注目下さい。各々のサイトの情報は以下の通りです。
【標高】 ⑬1,000m、⑩680m、④400m
【標高差】⑬と⑩:320m、⑩と④:280m
【距離】 ⑬と⑩:7km、⑩と④:20km
【勾配】 ⑬と⑩:320/7,000=0.045,  ⑩と④:280/20,000=0.014

例えばですが、吉野川は阿波池田から海までの標高差は約100m、距離は85kmほどなので、同様な方法で勾配を計算すると0.001となります。

すなわち、祖谷の川(祖谷川)は多くの皆さんが目にする川よりも10倍以上勾配が厳しく、奥祖谷に至っては40倍以上流れが激しいということになります。

実際⑬~⑩の辺りは幹線道路の勾配も急で、車をニュートラルに入れて転がすと、ジェットコースターのように転がります。とてもじゃないですがブレーキ無しでは運転できません。逆にアクセルはなくても進みます。

そして今回の主人公である⑪平谷の治山堰堤群はそんな場所に位置します。

さてこのように勾配が急だと何が起こると思いますか?

当然川の流れが急になります。 川の流れが急だと岸の側面の土がえぐり取られます。 するとそこに空洞ができ、上方の土砂が崩れ落ちてきます。 これを繰り返すうちにある日大きな地すべりが発生すると言う訳です。

そして平谷の治山堰堤群(冒頭の写真)はまさにそういうところです。

今からさかのぼること70年前の1954年、台風12号の豪雨によって地すべりが起こったそうです。その幅400~600m、斜面長2.2km、最大深度は60mの深層崩壊だったようです。とてつもなく大規模です。

同治山堰堤群はこのような地すべりの再発防止を目的として作られました。

堰堤を作ると川の流れが階段状になり、緩やかに流れて急激に落ちる、という動作になります。これにより流れが緩やかになり側面の土砂を削られません。

洪水の時も、堰堤で土砂の流出が堰き止められてるので、前述の空洞化現象が起きません。これにより地すべりが抑制されています。

以上が地すべりの原理と対策ですが、この地はそのような堰堤が10数基あります。しかも地すべりの側圧で堰堤が破壊されないよう一つ一つの向きや形が違います。

そして当然ですが、地すべり地帯なので杉の木が植林されていません。自然林ばかりなので、春の新緑、秋の紅葉が大変きれいです。雪景色もよいです。人間の知恵と技術が結集された独特な形の堰堤群ともよくマッチしています。

という感じで、人の営みと自然が美しく調和しているため、この場所は三好ジオパークのカルチャラルサイトとして指定されています。更に三好市域の風景地60の中の一つにも選定されています[*1]。治山の様子は”後世に伝えるべき治山60選”の一つにも選ばれています。
*1 三好市教育委員会発行、”三好市域の風景地 吉野川支流域名勝調査報告書”、2023年3月

単なる風景だけでなく、ジオや人の営みとの関係性にも興味のある方! 是非この地を訪れ、あれやこれや観察して欲しく思います。

ちなみに先週紹介した集水井先週紹介した集水井ですが、この場所には6基もあるそうです。

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